「大地の子」徹底解説 〜原作が読みたくなる読書ガイド〜

山崎豊子の作品を全て読んだ上で、群を抜いてすごいと思ったのが「大地の子」でした。
壮大なテーマ、綿密な取材、感動場面の数々、適切なタイトル、そして素晴らしいラストシーン。
中国内の取材にあたり胡耀邦総書記の全面支援を受けたという幸運にも恵まれたようです。

文庫本で4巻、計1,500ページという大作にも関わらず苦痛や退屈は全くありませんでしたが、登場人物を覚えるためにメモをしたり、地名の場所を地図上で調べたりすることをもどかしく感じました。

これから大地の子を読む方に役に立てていただきたいと思ったことが記事作成のきっかけです。
既読の方には年表や各章の要約により、読み返したいところを探すことが容易になるでしょう。

少しでも多くの方に原作を読んでいただき、感動を共有できることを望みます。

目次

登場人物(ネタバレ度低)

主な登場人物です。

■陸一心(ルーイーシン、=松本勝男)の家族、親戚、友人
徳志(トウチ、養父)
淑琴(スーチン、養母)
秀蘭(シュフラン、従兄妹)
江月梅(チアンユエメイ)
燕々(イエンイエン、娘)
袁力本(ユワンリーベン、幼馴染み)
趙丹青(ツアオタンチン、初恋の人)

■松本勝男家族、および長野関係者
耕次(父)
タキエ(母)
耕平(祖父)
勝男(陸一心)
あつ子(妹)
みつ子(妹)
大沢咲子(おおさわの姉さん)
狭間信一(地元長野の世話役)
山野章子(孤児たちに山野媽々と慕われている)
長岳滋光師(山本慈昭師、元住職で残留孤児の父)

■北京鋼鉄公司
長唐偉(物理学者の息子)
王(造反派司令)
朱子明(技師長、一心の上司)
李忠国(工人→専案組組長)

■中国共産党
毛沢東主席
林彪副主席
周恩来
鄧平化(鄧小平がモデル)
夏国鋒(華国鋒がモデル)
胡堯邦(鄧の側近、胡耀邦がモデル)
趙思央
芳穀(副総理、監獄博士)
于春里(国家計画委員会)
北牧(副総理)
李賢念(第一副総理、ナンバー2)
冷珠(鉄の女)
康史司(石油工業部長→国務委員)

■労働改造所
江月梅(チアンユエメイ、破傷風の際の看護婦)
黄書海(ホワンシュウハイ、日本語を教えてくれた)

■東洋製鉄(新日本製鉄)
稲村(東洋鉄鋼会長、稲山嘉寛がモデル)
斉木社長(東洋鉄鋼社長、斎藤英四郎がモデル)
柿田専務(製鉄所作り担当)
松本耕次(木更津工場設備部長)
紅谷(東方商事社長、通訳)

■宝華製鉄(宝山製鉄)
黎元(重工業部部長)
趙大烈(重工業部副部長)
楊処長(一心を引き抜く)

陸一心年表(ネタバレ度低)

陸一心(松本勝男)の年表です。
時期がはっきり書かれていないところは文脈から西暦年を推定しました。

1938年0歳長野県に生まれる
開拓団として家族で満洲へ
1945年7歳終戦直前、関東軍に見捨てられソ連軍から逃走中、祖父、母、下の妹を失う
上の妹あつ子とは佐渡開拓団跡で生き別れる
黒竜江省七台屯の丁財福に貰われる
1946年8歳丁の家を逃げ出して列車に乗りハルビンへ向かう途中、生涯の友となる袁力本に出会う
長春で人さらいに捕まり売りに出されるが売れ残り、陸先生に引き取られる
黒腋病(ペスト)で生死をさまようが、陸先生の看病で回復
陸先生の子となり一心と名付けられる
194810毛沢東の八路軍に包囲され長春を脱出
范家屯の陸先生の兄宅に身を寄せる
194911毛沢東が新中国成立を宣言
范家屯に新設された小学校に入学し、袁力本と再会
195113初級中学校に進学
195416高級中学に入学
195719大連工業大学に入学
初恋の人である趙丹青と出会う
1960年22歳日本人であることを告げ趙丹青と別れる
196123北京鋼鉄公司に入社
196628文化大革命始まる
日本人が故にスパイ行為を疑われ労働改造所へ送られ、寧夏回族自治区の黄河支流でダム工事をさせられる
1969年31歳内蒙古の労働改造所に移り、羊飼いの作業
197032改造所で黄書海に出会い、日本語を教えてもらう
破傷風になり生死をさまようが江月梅の献身的な介護で回復
197133釈放され陸先生と再会
北京鋼鉄公司に復帰し図書室勤務
1972年34歳日中国交回復
国家機関である重工業部の外事司通訳として採用
1973年35歳江月梅と結婚
1974年36歳娘の燕々が生まれる
1976年38歳周恩来と毛沢東が相次いで死去。4人組が逮捕され文化大革命終了
計画司に配属
197739日中共同により工期2年で新製鉄所を建設することが決定
1978年40歳2週間の予定で日本に出張
新製鉄所の工事着工
松本が戦争孤児探しのため中国へ行き、7歳の勝男を買った丁の家を訪問
1979年41歳共産党に入党する
月梅が巡回診療で戦争孤児の張玉花と出会う
1980年42歳製鉄所の工事の談判で松本と対峙する
中国の政争(鄧小平の陰謀)により製鉄所の工事が中止に
1981年43歳張玉花の元を訪れ、妹のあつ子であることが分かる
あつ子は死の病に犯されていた


あつ子死亡
直後に松本が父親であり、自分の名前が松本勝男であることを知る
1982年44歳日本を訪れている一心の宿舎に大沢の姉さんが訪問
1983年45歳内蒙古の製鉄所に飛ばされる
1985年47歳趙丹青の告発により宝華製鉄に復帰
宝華製鉄完成
父親の松本耕次と三峡下りの旅へ

登場地巡礼地図(ネタバレ度低)

作品に出てきた場所を地図上に示しました。
ノンフィクションでは無いので、正確な場所が特定できない場所も多くあります。
地図左上のアイコンをクリックすると、場所一覧のフレームが現れます。

信濃郷開拓団
一心が生まれてすぐに連れて行かれた開拓団。
下記の内容から場所を推定。
・ソ満国境に近い日本人開拓村(1巻P59)
・松花江の支流がそそぎ込む北満の東索倫河の開拓団(1巻P59)
・百七十キロ先の勃利目ざして山中の道を行くことになった(1巻P62)
もう少し下流かとも思われるが、Googleマップではこれ以上松花江川の下流にそそぎ込む支流が見当たらず。

勃利駅
ソ連から逃れるため目ざした満鉄の駅だったが、勝男たちがたどり着くことはなかった。

佐渡開拓団跡
勃利駅まであと少しの場所であり、丁財福が勝男を連れて帰ったことから七台河市(作中では七台屯)の近くにあったと思われる。

丁財福の家
下記以外に情報が無く場所を特定できず。
・馬車で七台屯の町に売りに行くことが時折、あった(1巻P83)
・(馬車で)1日で往復できる距離(1巻P84)

哈爾濱(ハルビン)
勝男の家族がとりあえずの逃走先として目ざした場所。

牡丹江駅
ハルビンへ行くための乗り換え駅。

長春
ハルビンに向かっていた勝男が行き着いた場所。
勝男を拾った陸先生の家があった。

范家屯(陸先生の実家)
長春から脱出した陸一家が身を寄せたところ。

孟家屯(初等中学校)
一心の通学を楽にするために学校の近くに引っ越した。

大連工業大学(現在の大連理工大学)
現在の「大連工業大学」は、当時「瀋陽軽工業学院」という別の学校である。
当時の「大連工学院」であり現在「大連理工大学」となっている学校がモデルであると思われる。
(情報源: Wikipedia)
現在の偏差値ランキングでは大連工業大学より大連理工大学の方がかなり上位。

北京鋼鉄公司(中鋼鋼鉄公司北京分公司)
大学を卒業した一心が就職した製鉄会社。

寧夏回族自治区(労働改造所1)
一心が最初に送られた労働改造所。
作業内容は。黄河支流のダム工事。

内蒙古自治区(労働改造所2)
黄河支流のダム工事が失敗し、移された場所。
作業内容は羊飼い。

宝華製鉄(宝山製鉄)
7年の歳月をかけ日中共同で完成した製鉄所。

西岱屯
あつ子がいた場所。

大包鋼鉄公司
一心が飛ばされた内蒙古の製鉄所。
NHKドラマ版ではここがラストシーン。

長江三峡
一心と松本が親子水いらずで旅行するラストシーン。

各章要約(ネタバレ度中)

極力ネタバレしないように書きましたが、ある程度のネタバレはやむを得ません。
未読の方は適当なところで切り上げて原作を読むことをおすすめします。
既読の方は再読時のガイドにしていただければと思います。

■一巻

一章 小日本鬼子(シアオリーベンクイツ)

1966年5月
北京鋼鉄公司の批判大会で吊るし上げられ拷問を受ける。
刑期を告げられることなく列車で労働改造所へ輸送される。

二章 棄民 

1945年8月9日-27日
ソ連国境に近い日本人開拓村。
関東軍に見捨てられ逃避行中下の妹と祖父死亡、母はソ連軍に殺され、あつ子は中国人に連れていかれる。

三章 この子売ります

1945年-1946年
勝男は七台屯の農家に貰われるが1年後に脱出。
逃走中、生涯の友となる袁力本に出会う。
長春で売られそうになるが陸先生に拾われる。

四章 爸々(バーバ、父親)

1948年
戦乱により長春を脱出し、范家屯の陸の生家へ。
学校で袁力本と再会する。

五章 洋槐(アカシア)

1966年12月
労働改造所へ列車で移動。
陸先生に育てられてから大学卒業までを一心が回想。

六章 労働改造所

1966年-1969年
寧夏回族自治区の黄河支流にある労働改造所での苦しい生活。

七章 流刑

1969年-1970年
引き続き労働改造所での苦しい生活。
丹青との別れを回想。
ダム工事が中止になり別の労働改造所へ行くことになる。

八章 さくら さくら

1970年
内蒙古の労働改造所に移動され牛飼いになる。
「さくら さくら」の口笛を吹く黄書海と出会い、日本語を教えてもらう。

九章 百里香

1970年
破傷風で生死をさまよう一心を看護婦の江月梅が献身的に看護する。
百里香(バイリシアン)とは百里の先まで香りがする花。
秋になるとつつましい実を結ぶ百里香は、江月梅その人のようであった。

十章 直訴

日本語のメモが見つかり集会で吊るし上げられるが、黄書海の機転により銃殺をまぬがれ15年の刑に処される。
差出人の無い手紙を読んだ陸先生が、一心を救うため人民来信来訪室へ直訴することに。

十一章 二つの手紙

幼馴染の秀蘭から袁力本への手紙により、一心救出に一歩前進する。
労働改造所の一心に父からの手紙が届く。

■二巻

一章 再会

労働改造所で江月梅と再会するが一心は愛を拒絶する。
陸先生が一心を救うため人民来信来訪室へ。

二章 北京

一心が釈放され陸親子が再会。

三章 証し

北京鋼鉄公司に復職するも閑職に。
江月梅と再会。
通訳として重工業部に配属されることに

四章 不死鳥

1977年4月
鄧小平が復権する。
中国金属学会が東洋製鉄を見学する。

五章 中南海

計画司に配属される。
一心と月梅が結婚。

六章 海

新製鉄所の候補地を検分するための航海に一心も参加する。
娘の燕々は3歳に成長。

七章 長城

日中の国家プロジェクトにより残留孤児の肉親探しが始まる。

八章 茨の日々

松本が戦前から戦後を回想する。
松本が新製鉄所の現地所長に任命される。

九章 上海

新製鉄所建設開始。
初恋の相手で気まずい別れ方をしていた丹青と再開。

十章 談判

新工場建設についての日中の談判が難航する。
一心が共産党員に推薦される。

十一章 暁

里帰りした大沢咲子と松本が会う。
咲子により勝男、あつ子生き延びたことを知る。

十二章 国務院回線

食堂で一心と松本が第3次接近遭遇。
新製鉄所の金額交渉が大詰めを迎える。
※国務院回線とは解放軍が架設した党中央との直通回線のこと。

十三章 鉄の長城

起工式の中国代表は華主席でも李副総理でもなかった。
宝華製鉄が鄧小平と華国鋒の政争の道具にされる。

■三巻

一章 日本

一心が初めて日本へ行き、木曽の民謡を聞き記憶の扉が開かれる。

二章 富士山

富士山がヒントになり「しなのふじ」という言葉を思い出す。
鄧小平の陰謀により宝華製鉄の建設が暗礁に乗り上げる。

三章 三十六年目の旅路

松本が孤児探しの旅に長春や勃利へ行く。

四章 長江

工事現場のトラブルで松本と一心が対峙する。

五章 誓い

宣誓会で一心が新党員に認められる。
巡回診療に出た月梅が戦争孤児の張玉花と出会う。

六章 密告

馮長幸が嫉妬により一心を密告するが上司は黙殺する。

七章 変節

鄧小平の意向をくんだナンバー2趙大烈が、黎元部長を追い落としにかかる。

八章 北戴河

鄧小平の陰謀により中国側が宝華製鉄の工事中断を通告。

九章 明暗

日本側は工事中断に翻弄される。
松本は仕事に疲れながらも子供探しを続ける。
何度読み返してもタイトルの「明暗」の意味がわからず。「暗」しかない。

十章 妹よ

一心が張玉花の元を訪れ妹のあつ子であることが判明。

十一章 再開

一心があつ子の家族と対峙。
華国鋒失脚し、工事再開する。

十二章 突風

建設現場の重要機器が中国側の不注意により破損するが、逆に日本側の関東電気が窮地に立たされる。
一心はあつ子の見舞いに行く。

■四巻

一章 運命

あつ子が瀕死との連絡に一心がかけつけるもあつ子は息を引き取る。
その直後張玉花の元へ到着した松本が一心と鉢合わせし、互いが親子であることを知る。

二章 眼には眼を

松本が父親であることにより一心にスパイの疑いがかかり、一心は日本側との交渉を有利に進めるために利用される。

三章 二人の父

松本は息子を育ててくれた礼を言うため陸先生の家を訪れる。

四章 不信

スパイの疑いをかけられている一心は日本側の代表である松本と交渉をさせられる。

五章 家

日本に滞在する一心の宿舎に大沢咲子が訪れる。
一心は父親である松本の家へ行く。

六章 無情

一心が松本宅からの帰りが遅れ門限を破ってしまう。
馮長幸に嵌められ機密文書漏洩を疑われる。

七章 査問

重工業部党委員会にて一心が審査され、懲罰人事として内蒙古に飛ばされる。

八章 刺す

趙丹青が一心の無実の罪を知り、犯人である夫の馮長幸を告発する。

九章 火入れ

一心が宝華製鉄の現場に戻る。
高炉での6ヶ月の間の苦労の末、火入れの時を迎える。

十章 三峡下り

一心と松本が親子水入らずで三峡下りの旅へ。
日本で一緒に暮したい父の気持ちを聞き一心は迷う。

名場面集(ネタバレ度高)

名場面、感動的場面を集めました。
既読の方はその場面を思い出し、涙を禁じ得ないでしょう。
これから原作を読もうという方は読まないことをおすすめします。

1巻3章「この子売ります」売られている勝男を陸先生が引き取る

売られている勝男を助けたい陸(ルー)先生であるが貧乏なためかなわない。
「この上衣でこの子が助かるのなら」と売れ残った勝男を大切な綿入の上衣と引き換えに連れ帰った。

1巻3章「この子売ります」勝男が病気になり死にかける

ペストと思われる病気に罹った勝男であるが陸先生の懸命な看護により一命をとりとめる。
陸先生は勝男を自分の子とし、何事も誠心誠意で行うという意味で一心(イーシン)と名付けた。

1巻4章「爸々」一心が陸先生を初めて爸々(バーバ=父さん)と呼ぶ

戦乱からの脱出時、長春の卡子(検問所)で一心のみ捕まりそうになるが、陸先生の自分を身代わりにするという態度に感心した兵士に見逃される。
その時一心は「爸々! 爸々!」と声をあげ、身をよじって泣いた。

1巻8章「さくら さくら」子供時代の記憶の一端がよみがえる

労働改造所で羊飼いが吹く口笛のメロディーには聞き覚えがあった。
その曲とは「さくら さくら」であった。

さくら さくら 弥生の空は
見渡す限り 霞か雲か 匂ひぞいづる
いざや いざや 見に行かん

作者不明

1巻9章「百里香」一心が破傷風にかかって死にかかる

瀕死の一心であったが、江月梅の献身的な看護と高価な薬の投与により死を免れる。
回復後初めて見た月梅の姿は、優しく澄んだその声にたがわなかった。

1巻10章「直訴」差出人の無い手紙

一心の消息がわからずにいた陸先生宅に差出人の無い手紙が届く。

あなたの息子、陸一心は現在、内蒙古の労働改造所に囚人として収容されている。
本人の話によれば、一九六六年十二月、単位の隔離審査で、日本の特務、生産破壊の罪名を受け、司法機関を経ず、そのまま寧夏回族自治区の労改へ送られ、六九年初め、 内蒙古労改へ移送されたとのことである。
罪名は全くの捏造で、冤罪であるとのこと。
辺境の労改にあっても、なお養父母の恩愛に報いるために生きぬく心情に摶たれ、一報する次第です。

1巻11章「二つの手紙」父からの手紙

「人間の屑のように扱われ、あらゆる辱しめを受け、身も心もぼろぼろになりながら、ただ耐え忍ぶしかなかった」一心に、届くはずの無い父からの手紙が届いた。

息子よ、音信不通のお前の消息をようやく、知ることが出来た。
北京の国務院人民来信来訪室に辿り着き、親切な担当官のおかげで、お前の居所を教えて戴いた。
感慨無量。 私は今年の春節を迎えるや、昨年にひき続いて北京で過し、ことのほか、寒い厳しさが身に沁みた。
お前が現在、どのような情況にあるか解らないが、やがてお前の新しい面影と再会できることを心待ちにしている。
それには労改の指導者の云われることをよく聞き、しっかり思想を改造し、健康に充分留意して、一日も早く、人民に役だつ人間になることを期待する。
父も母も元気でいるから心配無用、寒い季節だから体を大切にし、間もなく春が訪れるのを楽しみにして下さい。
息子よ、私は、お前を信じている。

父の手紙は検閲を前提としながらも一心に重要な暗示を与える書き方であった。

2巻2章「北京」一心と陸先生が再会

労働改造所を釈放された一心を出迎えるため、陸先生は10日前から北京駅で毎晩列車の到着を待っていた。
再開した親子は抱き合い、言葉も無く互いの体を手でまさぐった。互いに想像した以上の変わり果てた姿で、語らずしてこの5年間の惨憺たる歳月がしのばれた。

3巻10章「妹よ」一心があつ子を探し当てる

あつ子が覚えていた3つの日本語は、猫のタマ、犬のシロ、そしてかっちゃんであった。
「私がかっちゃん、お前の兄ちゃんだよ」
あつ子は一心の体にかきつき、呻くように泣いた。36年間積もり積もった人間の苦しさ、孤独、人恋しさ、恨みがどっとほとばしり出るような呻きであった。

4巻1章「運命」あつ子の死、そして一心の父が判明

あつ子の死の床に駆けつけた一心だが、間も無くあつ子は亡くなる。
その直後に訪れたのは東洋製鉄の松本だった。
互いが親子であることが分かり、しばし凝然と見つめあった。

4巻5章「家」おおさわの姉さんとの再会

37年前に佐渡開拓団跡で生き別れた大沢咲子と再会する。
「おおさわの姉さんだよ、覚えているだろ」という咲子の言葉にお互いに手を取り合い抱き合って泣いた。

4巻9章「火入れ」7年の時をかけて新製鉄所が完成

難航の末に火入れは成功し、万雷の拍手と歓声が湧き上がる。
その一瞬に中日双方にわだかまっていた不信感と憎悪は消え去った。

4巻10章「三峡下り」一心はどちらの父を選ぶのか

陸先生は一心を日本に返すことを覚悟する。
どちらの父を、そしてどちらの国を選ぶか悩み抜いた一心が答えに辿り着く。
「私は、この大地の子です。」

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